No.12 散華抄を読んで – 日本赤十字社 兵庫県支部

事務局長の窓

No.12 散華抄を読んで

2020年8月11日 掲載

日本赤十字社兵庫県支部事務局長 大久保博章

8月になるとテレビ、新聞は戦争に関する特集が多くなる。戦後三四半世紀となる今年は、とりわけ多くの戦争体験が報道されている。

日本赤十字社兵庫県支部においても、忘れてはならない戦争体験、いや従軍看護の記録を綴った小冊子がある。

「散華抄」これは、日本赤十字社第三七六救護班(兵庫支部)として南方の地に散った御霊に捧げるために、同じ救護班で行動を共にされた武山敏枝さんと小田美代子さんが昭和43年に執筆されたものである。

救護班は昭和18年3月5日に24名で編成され、昭和20年12月8日に帰還するまでの2年9か月間、ラバウル、ミンダナオ島で活動。この間、病気その他で内地に還送された方2名を除き、生還者はわずか7名、15名の看護婦が祖国を思い、家族を思いながら殉職されたのである。

女性の身でありながら敢然として南方の戦地に赴き、言語を絶した困苦欠乏のなかで、軍と行動をともにしながら使命を全うするために奮闘された姿は、悲壮と崇高さに満ちている。

しかし何よりも残念なのは、殉職者15名のうち、13名が終戦日以降に亡くなったことである。終戦から2か月間、敗戦の事実も知らず、ジャングル地帯を逃避し、栄養失調、赤痢、体力消耗による事故等で尊い命が失われた。

ジャングルでの生活は、飢餓と病気の想像を絶するものであるが、そんな状況下でも、「必ず生き残って支部に報告する」とか「日赤の看護婦として恥ずかしい行動をとってはいけない」との記載がある。

改めて、日赤従軍看護婦として、清純な気持ちを最後まで持ち続けて散華していった御霊の冥福を祈るばかりである。

飽食の時代を生きている私たちからは、想像できない苦難の中で活動いただいた先輩方に思いをはせながら、戦後75年、兵庫県支部創立130年のこの年を、WITHコロナの赤十字活動スタートの年としていきたい。