No.46 ウクライナ人道危機に思う – 日本赤十字社 兵庫県支部

事務局長の窓

No.46 ウクライナ人道危機に思う

2022年3月11日 掲載

日本赤十字社兵庫県支部事務局長 大久保博章

今、ウクライナ各地で激化している戦闘により、多くの市民が緊張と不安の中で過ごしている。

20世紀は「戦争の世紀」、21世紀は「愛の世紀」と言われ、まさかこのような事態が起こるとは想像だにしなかったが、テレビ映像を通じて目の当たりにする戦闘の姿は、まさに現実のウクライナの姿であり、驚きを禁じ得ない。既に子供を含む多くの市民の死傷者が報告され、市民生活に不可欠なインフラにも大きな被害が出ている。また、紛争の被害を恐れ、200万人を超える人々が周辺国に避難している。

マスコミは連日、「ロシアのウクライナ侵攻」と紛争犠牲者の状況を報じている。紛争犠牲者支援という性質上、すべての国際赤十字、赤新月運動の構成員には、赤十字の基本原則を踏まえた適切な対応が求められる。特に紛争犠牲者の人道支援において「公正中立」の原則の遵守は、赤十字の活動の要である。このため、赤十字は、「ロシアによる軍事進攻」や「戦争犯罪」といった表現は使用せず、固有の国名を挙げ、その個別のふるまいについて合法か違法かという判断やいずれかを非難していると取られる行動は避けることとしている。

今、日本各地でウクライナ国旗色のライトアップやウクライナ国旗を添えての救援金の募集が行われている。赤十字は敵味方の区別なく救護する団体であるので、ウクライナ及び避難民受け入れ国での赤十字の公平・中立の活動に支障をきたさないよう、日本国内においても公平・中立な立場を堅持しなければならない。いずれか一方だけを支援しているように誤解される行動は控えなければならない。あくまで紛争犠牲者の支援を行う、それが赤十字であるからである。

日本赤十字社では、3月2日からウクライナ人道支援救援金の募集を開始している。この救援金は、国際赤十字を通じて、ウクライナのみならず、周辺国(ポーランド、スロバキア、ハンガリー、ルーマニア、ロシア、ベラルーシ等)における赤十字事業、具体的には、食料、水、医療、こころのケア、安否調査、避難所、生計支援、国際人道法遵守の働きかけ等に使われる。 一日も早くこの人道危機が収束することを祈るばかりであるが、当面、一人でも多くの方の救援金への賛同と赤十字活動へのご理解をお願いしたい。

ウクライナから避難してきた人々に国境沿いで食料や衛生物資等を配付するボランティア
(C)ルーマニア赤十字社