2026年8月4日 掲載
事務局長 生安 衛
厳しい暑さが続く8月を迎えました。日本列島は各地で気温が上がり、40度以上の「酷暑」を記録している地域もあります。近年は全国各地で記録的な猛暑や集中豪雨が相次ぎ、私たちの暮らしを取り巻く自然災害のリスクはこれまで以上に高まっています。
また、7月28日夕には熊本県熊本地方を震源とする「令和8年熊本地震」が発生し、最大震度7、マグニチュード7.1を観測するなど甚大な被害が生じました。改めまして、お亡くなりになられた方々に哀悼の意を表しますとともに、被災されたすべての皆様に心よりお見舞いを申し上げます。
本支部としては、8月1日~2日から、第一陣として医師や看護師、主事ら計5名からなる「日赤災害医療コーディネートチーム」を熊本県の被災地に派遣しています。医療救護活動の調整役を担う専門チームであり、医療ニーズの把握や医療資源の情報収集・分析、地元の行政などの関係機関や関係団体との連携・調整などにあたっています。
今後は、本社や他の府県支部との協議をふまえて、被災現場で応急診療や健康相談などを行う「救護班」も派遣する予定にしております。
日本赤十字社では、7月31日から「令和8年熊本地震災害義援金」の受付を開始しています。被災された方々が一日も早く、安らぎのある暮らしを取り戻されることを願うとともに、復旧・復興に向けて歩みを進める被災地の皆さまに心を寄せて、支え合いの輪を広げていきたいと思います。
皆さまの温かいご支援、ご協力をお願い申し上げます。
<令和8年熊本地震災害義援金>
https://www.jrc.or.jp/contribution/2026/0731_054627.html
(熊本地震と防災庁設置で高まる防災意識)
さて、令和8年熊本地震は、自然災害がいつどこで発生するかわからないことを改めて私たちに示しました。阪神・淡路大震災を経験した兵庫県としても、その教訓を未来へ継承しながら、地域防災力の向上と災害への備えを一層進めていく必要があります。
また、本年7月に「防災庁設置法」が成立し、日本の防災体制は大きな転換期を迎えました。本年11月に発足予定の防災庁には、国や自治体、関係機関・関係団体をつなぐ司令塔として、平時から災害時まで切れ目のない防災体制の構築が期待されています。
今月は、お盆で家族や親族が集まる機会の多い季節です。防災について話し合い、避難場所や連絡方法、備蓄品の確認を行うには絶好の機会ではないでしょうか。災害はいつ発生するか分かりませんが、日頃からの小さな備えが大切な命を守る力となります。
今回は、防災庁設置法の概要や本年11月に発足予定の防災庁への期待などを取り上げるとともに、現在も被害状況の把握や復旧対応が続く令和8年熊本地震にも触れながら、災害に備えることの重要性と地域防災の在り方について考えてみたいと思います。
(法案成立の概要)
防災庁設置法は、5月19日に衆議院本会議、7月13日に参議院本会議で可決・成立し、7月17日に公布されました。
この法律は、内閣直属の「防災庁」を新設し、防災政策の企画立案や関係省庁との調整、災害発生時の対応、さらには復旧・復興までを一体的に推進することを目的としています。
防災庁には中央防災会議が置かれるほか、地方機関として「防災局」の設置も予定されています。また、防災大学校の設置を視野に、専門人材の育成や研究機能の強化が図られることとなっています。
防災庁は、内閣総理大臣を長とし、防災大臣が実務を統括します。現在の内閣府防災担当を発展的に改組し、政府全体の防災施策を一元的に推進する司令塔としての役割が期待されています。
これまでの防災行政は内閣府防災担当を中心に進められてきましたが、災害対応と平時の防災対策・政策立案の両立や、省庁間の調整に課題があると指摘されてきました。防災庁は、こうした課題を解決し、平時の備えから災害対応、復旧・復興までを切れ目なく担う体制の構築を目指して創設されるものと考えています。
<防災庁設置法及び防災庁設置法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律の概要>
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/bousaichou_preparation/pdf/gaiyo_260717.pdf
(防災行政のさらなる強化)
防災庁の大きな特徴は、首相直轄の司令塔組織として設置される点にあります。防災大臣には各省庁に対する勧告権が与えられ、関係省庁にはその勧告を尊重する義務が課されます。
また、現在の内閣府防災担当よりも体制が拡充され、定員は現行の約1.6倍となる352名が予定されています。専門人材の確保や知見の蓄積が進むことで、防災行政のさらなる強化が期待されます。
防災庁は、災害発生時の対応だけでなく、災害リスクの分析、防災計画の策定、インフラの強靱化など、平時からの備えを重視した事前防災を推進する役割も担います。災害発生時には、防災対策の司令塔機能を一元化することで、関係機関との調整や意思決定の迅速化が図られ、より機動的な対応が可能になるものと考えられます。
さらに、被災直後の応急対応にとどまらず、復旧・復興までを一貫して支援する体制が整備されることで、被災地域の早期再建への貢献も期待されています。
加えて、自治体との連携強化も重要な役割の一つです。地方における司令塔機能を担う「防災局」の設置により、地域ごとの災害リスクに応じた支援体制の整備や、地域の実情に即した防災対策の推進が図られるものと考えられます。兵庫県や関西広域連合をはじめ、多くの自治体がその誘致を表明しています。
(推進すべき課題)
防災庁の推進に当たっては、様々な課題があります。例えば、防災大臣の勧告権がどこまで実効性を持つのか、既存の各省庁との役割分担をどのように整理するのか、また専門人材を継続的に育成・確保できるのかなどです。
また、防災庁のみで災害対策が完結するものではなく、自治体や日本赤十字社をはじめとする関係団体、さらには地域住民との連携が不可欠であることはいうまでもありません。
さらに、防災データの統合や防災DXの推進、避難所環境の改善、被災者支援制度の充実など、多岐にわたる施策を着実に進めていく必要があります。
加えて、気候変動の影響による豪雨災害の激甚化や大規模地震への備えなども重要な課題です。特に近年は猛暑が続いており、今回の熊本地震のように夏季に大規模災害が発生した場合には、避難生活による心身への負担が一層大きくなります。断水や停電が発生するなかで、熱中症の予防や十分な水分の確保、冷房設備を含めた避難所環境の改善など、被災者の健康と命を守るための取組がこれまで以上に重要となっています。被災者の健康管理や災害関連死を防ぐための支援体制の充実も求められるところです。
防災庁が単なる組織改編にとどまらず、こうした課題に着実に対応し、実効性のある政策を展開できるかどうかが今後の評価を左右する重要なポイントになると考えます。
(地域防災力の向上)
阪神・淡路大震災から31年が経過しました。この震災の経験と教訓は、防災教育の充実やボランティア活動の普及、地域コミュニティの形成など、日本の防災文化の発展に大きな影響を与えてきました。
一方、令和8年熊本地震は、災害がいつ、どこで発生してもおかしくないことを改めて私たちに認識させました。また、災害時には地域住民同士の支え合いや日頃からの備えが被害の軽減につながることを示しており、自助・共助を基盤とした地域防災の重要性を再認識する契機となりました。
私たち日本赤十字社は、被災地支援や救護活動、こころのケアに加え、防災教育や救急法等の普及を通じて、地域防災力の向上に取り組んできました。災害による被害を最小限に抑えるためには、「自助」「共助」「公助」がそれぞれの役割を果たしながら連携することが不可欠です。防災セミナーや救急法講習も、その一翼を担う重要な取組であると考えています。
また、防災庁が創設されたとしても、一人ひとりの備えの重要性は変わりません。今回の熊本地震では、断水への対応や猛暑下における避難生活、避難所環境の確保など、被災者支援における様々な課題が改めて浮き彫りとなりました。こうした状況を踏まえると、飲料水や食料の備蓄、非常持出品の準備、家族間の連絡方法の確認、避難場所や避難経路の把握など、日頃からできる備えの重要性を改めて感じます。
また、災害関連死を防ぐためにも、高齢者や障がいのある方、乳幼児のいる家庭など、災害時に特別な配慮を必要とする方々を地域で支える体制を平時から整えておくことが重要です。そのためにも、地域全体で支援の在り方について話し合い、備えておくことが求められます。
本支部としても、自治体や関係機関、地域住民との連携を一層強化し、防災・減災に関する普及啓発や人材育成を通じて、地域防災の充実に努めてまいります。
いざという時に支え合える「顔の見える関係」を日頃から育んでおくことこそが、地域の防災力を高め、阪神・淡路大震災の教訓を次世代へ継承していく力になるものと考えています。
(今後への期待)
防災庁設置法の成立は、日本の防災体制を強化する大きな一歩であると考えます。災害大国である日本において、事前防災から災害対応、復旧・復興までを一体的に担う司令塔組織の設置は、大きな意義を持つものといえるでしょう。
一方で、どれほど制度や組織が整備されても、災害そのものを防ぐことはできません。今回の令和8年熊本地震においても、地震への対応に加え、猛暑下における避難生活や被災者支援など、様々な課題が改めて浮き彫りとなりました。重要なのは、国の防災体制の強化と、地域における日頃からの備えや支え合いの取組を結び付け、自助・共助・公助がそれぞれの役割を果たしながら連携していくことです。
本支部においても、今後も県民の皆さまとともに、防災意識の向上や人材育成、地域のつながりづくりなどに取り組んでまいります。阪神・淡路大震災の経験と教訓、そして令和8年熊本地震から改めて認識された課題を未来へつなぎ、災害に強い地域づくりを進めていくことが重要です。
防災庁の発足を機に、一人ひとりが家庭や地域における防災について改めて考え、具体的な備えにつなげていただくことを願うとともに、本支部としても誰もが安心して暮らせる地域社会の実現に向けて、引き続き力を尽くしてまいります。

▲神戸赤十字病院日赤災害医療コーディネートチーム出発時 ▲現地活動の様子