2026年9月9日 掲載
事務局長 生安 衛
猛暑の続いた夏から実りの秋へと季節が移ろう9月を迎えました。一方で、7月28日に発生した「令和8年熊本地震」の被災地では、今なお多くの方々が避難生活を余儀なくされています。被災された方々に心を寄せながら、一日も早い日常の回復を願う毎日です。
これまで、神戸赤十字病院、姫路赤十字病院、多可赤十字病院および当支部の職員で構成する災害対応要員を被災地へ派遣してきました。派遣された要員は、日頃から災害訓練や各種研修を受講した医師、看護師、事務職員等であり、災害医療コーディネートチーム、医療救護班、こころのケア班として活動しています。これまでに計7班45名を被災地へ派遣し、被災者の健康支援やこころのケアなどに取り組んできました。
発災から40日余りが経過した現在も、被災地では多くの方々が不安や不自由さを抱えながら生活されています。一日も早い復旧・復興を心より願うとともに、当支部としても、赤十字の使命のもと、被災された方々に寄り添いながら、必要とされる支援を継続して届けてまいります。
さて、9月は秋雨前線の影響による大雨災害が発生しやすい季節でもあります。
8月から、「令和8年8月千葉豪雨」をはじめ、福井県・石川県・富山県の記録的な大雨、さらには伊豆諸島での大雨など、全国各地で大雨による災害が相次いで発生し、浸水被害や人的被害が発生し、改めて自然災害の脅威を実感しました。
近年は気候変動の影響も指摘されており、短時間の集中豪雨や線状降水帯による災害が頻発しています。
今回は、これから本格化する秋雨シーズンを前に、大雨災害から命を守るための備えについて改めて考えてみたいと思います。
<令和8年8月千葉豪雨災害義援金(千葉県)>
https://www.jrc.or.jp/contribute/help/20260821/
<令和8年8月27日からの大雨災害義援金>
https://www.jrc.or.jp/contribute/help/20260904/
(秋雨前線とは)
秋雨前線は、夏の暖かい空気と秋の冷たい空気がぶつかることで形成される停滞前線です。前線が同じ場所に長期間停滞すると、雨雲が次々と発達し、長時間にわたり雨を降らせます。さらに台風が接近すると、大量の水蒸気が供給されて前線活動が活発となり、記録的な大雨をもたらすことがあります。
低気圧が接近すると、前線の活動が活発化し、線状降水帯が発生する危険性も高まります。短時間の豪雨だけでなく、数日間にわたる長雨によって河川の増水、土砂災害、浸水被害が発生しやすくなります。
(9月の気象状況)
2026年9月上旬、日本列島付近には秋雨前線が停滞し、さらに南の海上にあった台風第24号から暖かく湿った空気が流れ込み続けたことで、西日本から東北地方にかけて広い範囲で大雨となりました。気象庁などは、土砂災害や河川の氾濫、低地の浸水などへの警戒を呼びかけ、災害級の大雨に対する厳重な警戒を促しました。
特に九州南部では降雨が長時間にわたって続き、宮崎県では72時間雨量が1,000ミリを超えるおそれがあると予測されました。また、鹿児島県屋久島周辺では24時間雨量が490ミリを超える記録的な豪雨となり、土砂災害特別警報が発表されるなど、極めて危険な状況となりました。
一方、東北地方でも秋雨前線の影響により線状降水帯が発生し、青森県では記録的な大雨が観測されました。短時間に猛烈な雨が降ったことで河川の増水や浸水被害が発生し、一部地域では緊急安全確保が発令されるなど、住民の生命と暮らしに深刻な影響を及ぼしました。
さらに、9月8日、東海地方でも大雨が発生し、愛知県西部から岐阜県美濃地方にかけて線状降水帯が発生しました。名古屋市では1時間雨量104.5ミリを観測し、1890年の統計開始以来の観測史上最大を記録しました。市内では道路冠水や浸水被害が相次ぎ、河川の水位上昇に伴って避難情報や緊急安全確保が発令されるなど、都市部における豪雨災害の危険性が改めて浮き彫りとなりました。
近年の豪雨災害で特に注意が必要なのが「線状降水帯」です。線状降水帯とは、発達した積乱雲が次々と発生して帯状に連なり、同じ場所で数時間にわたって激しい雨を降らせ続ける現象です。発生すると短時間で災害の危険度が急激に高まるため、気象庁では半日前予測や直前予測を発表し、早期の警戒を呼びかけています。
今回の一連の豪雨は、台風が直接上陸しなくても、停滞する秋雨前線と台風から流れ込む大量の水蒸気が重なることで、災害級の大雨が発生し得ることを改めて示しました。九州、東北、そして東海地方においても線状降水帯による記録的な降雨が発生しており、近年は気候変動の影響もあって、これまで経験したことのないような豪雨への備えがますます重要になっているものと感じています。
(兵庫県で想定されるリスク)
兵庫県は日本海側と瀬戸内海側の両方の気候特性を持ち、山地や急傾斜地も多い地域です。そのため、秋雨前線の影響を受けると、河川の増水、内水氾濫、土砂災害など多様な危険が発生します。
過去には、円山川流域や揖保川流域などで大きな浸水被害が発生しています。
代表的なものとして、2004(平成16年)年の台風第23号災害があります。円山川流域を中心に大規模な洪水が発生し、豊岡市では市街地の広範囲の地域が浸水しました。住宅や事業所に大きな被害が生じ、多くの住民が避難生活を余儀なくされました。
2014(平成26)年8月には丹波市を中心に記録的な豪雨が発生しました。停滞前線による集中豪雨の影響で各地に土砂災害が発生し、住宅被害や交通網の寸断が相次ぎました。
2018(平成30)年7月豪雨(西日本豪雨災害)において県内各地で河川の増水や土砂災害が発生しました。宍粟市、養父市、朝来市などの山間部では土砂崩れが発生し、道路の通行止めや孤立集落の発生など、住民生活に大きな影響を与えました。
一方、都市部においても油断はできません。神戸市や姫路市などでは、近年の短時間強雨により道路冠水やアンダーパスの浸水が発生しています。都市部では河川から離れていても、排水能力を超える雨が短時間に降ることで浸水被害が発生するため、気象警報や避難情報への注意が必要です。
これらの災害事例に共通するのは、「これまで大丈夫だった」という経験則が通用しない場合があるということです。豪雨災害は発生までの時間が短く、状況が急激に悪化する特徴があります。
(県民一人ひとりに求められる備え)
防災の基本は「自助」であると考えています。まずはハザードマップを確認し、自宅や職場周辺にどのような災害リスクがあるのかを把握しておくことが重要です。また、避難場所や避難経路について家族で話し合い、非常持出品や飲料水、常備薬などを日頃から準備しておきましょう。
あわせて、スマートフォンなどを活用した気象情報の確認も欠かせません。気象庁の防災情報やキキクル、自治体が配信する防災メールなどを活用し、危険度が高まる前に行動することが大切です。夜間や激しい雨の中での避難は危険を伴うため、明るいうちの早めの避難を心掛けることも重要です。
当支部では、災害発生時の救護活動はもとより、平時からの防災・減災活動にも力を注いでいます。防災セミナーや救急法等の講習、防災ボランティアの育成などを通じて、地域の防災力向上に取り組んでいます。
また、自治体や地域団体と連携しながら、防災意識の向上と災害時の支援体制の強化を進めています。災害はいつ発生するかわかりません。しかし、日頃からの備えによって被害を軽減することは可能です。私たちは今後も、県民の皆さまの安全・安心な暮らしを支えるため、防災・減災の取組を推進してまいります。
(「まだ大丈夫」が危険を招くこともある)
このように停滞する秋雨前線は、私たちの日常生活に大きな影響を及ぼします。近年は豪雨災害が激甚化しており、「まだ大丈夫」という思い込みが被害拡大につながることもあります。
今一度、防災・避難行動の重要性について考えていただくため、日本赤十字社のYouTube公式チャンネルで公開している、上白石萌音さん出演のPR動画「避難をためらう心篇」をぜひご覧ください。
この動画では、「まだ大丈夫」「自分だけは大丈夫かもしれない」といった迷いが避難の遅れにつながる様子を描きながら、災害時における早めの判断と行動の大切さを伝えています。大切な命を守るために何が必要なのか、自分自身の行動を見つめ直すきっかけとして、ぜひご視聴ください。
<日赤PR動画「避難をためらう心篇」>
https://youtu.be/A5w5pz6Xu-Y?si=7qaBwk0q_iqYDTlK
そして、6月の事務局長だよりでご紹介した「新しい防災気象情報」について、改めて内容をご確認いただき、正しく理解していただくことが重要です。また、早めの避難行動と日頃からの備えを実践することが、自らの命と大切な人の命を守る第一歩であると考えております。
<6月の事務局長だより「(No.26)梅雨の時期を迎えて、新たな防災気象情報と備えについて」>
https://www.hyogo.jrc.or.jp/mado/2026/06/03/24726/
当支部では、近年各地で甚大な被害をもたらしている大雨災害を教訓に、災害への備えの重要性を県民の皆さまと共有しながら、防災・減災活動の推進に努めていきます。
今後も、防災セミナーや訓練、防災教育などを通じて地域の防災力向上を支援するとともに、関係機関との連携を一層強化し、災害時には迅速かつ適切な支援活動を展開できる体制づくりを進めてまいります。
県民の皆さまとともに、災害に強く、誰もが安全・安心に暮らせる地域社会の実現を目指してまいりますので、よろしくお願い申し上げます。
(追伸:ネパール被災地に寄せる思い)
8月26日、ネパール北部と中国の国境付近の山岳地帯で大規模な土石流と洪水が発生しました。9月6日現在、死者は両国で1,300名を超え、約5,500名が行方不明になるなど、甚大な被害が広がっています。
現在、ネパール赤十字社(NRCS)と国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)は、被災された方々の命と健康を守るため、救援物資の配布や給水支援、医療・保健活動、心のケアなどの緊急支援を展開しています。
日本赤十字社では、9月3日から「2026年ネパール洪水救援金」の受付を開始しています。突然の災害によって大切な家族や生活の基盤を失われた方々に心からお見舞いを申し上げるとともに、一日も早く安全で安心な日常を取り戻していただけることを願っています。
遠く離れた地で起きた災害ではありますが、苦難の中にある人々に寄り添い、人間のいのちと健康、尊厳を守るという赤十字の使命は世界共通です。
被災地の復旧・復興には今後も長い時間が必要となることが見込まれますが、私たち一人ひとりが被災された方々への思いを持ち続け、支援の輪を広げていくことが、被災地を支える大きな力になるものと考えています。
<2026年ネパール洪水救援金>
https://www.jrc.or.jp/contribute/help/2026nepal/