2026年10月15日 掲載
事務局長 生安 衛
秋の深まりとともに、朝夕には肌寒さを感じる季節となりました。
県内各地では紅葉の便りも聞かれ、運動会や地域のお祭り、イベントなどで人々の交流が活発になり、人と人とのつながりを実感する機会が増える季節でもあります。
一方で、近年は自然災害の激甚化や高齢化の進展などにより、私たち一人ひとりが自らの命を守り、周囲の人々を支える力を身につけることの重要性が高まっています。
そのような中、日本赤十字社の赤十字講習は、本年100周年という大きな節目を迎えました。赤十字講習の源流は1926(大正15)年に全国で実施が通知された衛生講習会にあり、それ以来、一世紀にわたり、人々のいのちと健康を守る知識と技術を社会へ伝え続けてきました。
救急法、水上安全法、幼児安全法、健康生活支援講習などは、時代ごとの社会課題や生活環境の変化に応じて発展してきました。
今日、私たちは災害の激甚化・頻発化や高齢化社会の進展など、新たな課題に直面しています。そのような時代だからこそ、赤十字講習の意義はますます高まっていると感じています。
そして、100周年を記念して、10月24日(土)に兵庫県支部として「赤十字講習100周年記念キャラバン」を開催します。
これらのことから、今回は100周年を迎えた赤十字講習について伝えたいと思います。
(赤十字講習100年の歩み)
赤十字講習の歴史は、大正末期から昭和初期にかけて始まりました。当時の日本では、けがや急病に対する応急手当の知識が広く普及しているとはいえず、家庭や地域においても衛生に関する正しい知識の習得が求められていました。そのような中、日本赤十字社は人々の健康と生命を守るため、救護に関する知識や技術を広く社会に普及することを目的として講習事業を開始しました。
戦前から戦後にかけては、傷病者への応急手当や家庭看護などを中心に講習が行われ、多くの人々が地域の中で学びを深めました。終戦後は復興が進む中で、公衆衛生の向上や地域福祉の充実が求められ、赤十字講習は国民生活を支える重要な役割を果たしたと考えます。
高度経済成長期に入ると、自動車の普及や都市化の進展等に伴い、交通事故や労働災害への対応が社会的課題となりました。こうした時代の変化を受け、救急法講習の充実が図られるとともに、水難事故の防止を目的とした水上安全法や、子どもの事故予防を目的とした幼児安全法など、講習の内容も多様化していったように見受けられます。
平成に入ると、阪神・淡路大震災や東日本大震災をはじめとする大規模災害を経験するなかで、「自分の命は自分で守る」「地域で助け合う」という自助・共助の重要性が改めて認識されるようになりました。赤十字講習においても、災害時の応急手当や避難生活に役立つ知識、防災・減災に関する内容が一層重視されています。
また、2000年代以降はAED(自動体外式除細動器)の普及が進み、心肺蘇生とAEDの活用を学ぶ救急法講習が広く実施されるようになりました。今日では学校や企業、自治会などさまざまな場面で赤十字講習が開催され、多くの人々が「いざというときに行動できる力」を身につけるよう実施しています。
さらに、少子高齢化が進む現代社会においては、高齢者の健康維持や介助技術を学ぶ健康生活支援講習の重要性も高まっています。また、災害の激甚化・頻発化などに伴った防災セミナーの充実など、赤十字講習は、それぞれの時代が直面する課題やニーズに応えながら発展を続けています。
<赤十字講習100周年記念特設Webサイト>
https://www.jrc.or.jp/lp/150th_anniversary/study100th/
(支部の赤十字講習)
当支部は、阪神・淡路大震災を経験した地域です。発災から31年が経過した今も、その教訓は決して色あせていません。
災害時には、公的支援だけでなく、地域住民による助け合いが大きな力となりました。また、高齢化の進展や単身世帯の増加により、日常生活においても地域で支え合う力の重要性が高まっています。
こうした中、当支部では、学校や企業、婦人会、自治会、市町などと連携しながら、赤十字講習の普及に取り組んでいます。とりわけ、災害や事故、急病などから大切ないのちを守るため、誰もが必要な知識と技術を身につけられるよう、さまざまな講習を実施しています。
講習では、単に技術を学ぶだけでなく、「自分の身を守り、周囲の人を助ける力」を育むことを目的としており、「健康と安全を守る講習」として実施しています。
その講習の内容を紹介しますと、「救急法」では、日常生活で起こりうるけがや急病への対応方法を学びます。心肺蘇生やAED(自動体外式除細動器)の使用方法をはじめ、止血法、骨折時の固定、搬送方法、災害時の心得など、いざという時に役立つ知識と技術を身につけることができます。
「幼児安全法」は、乳幼児期に起こりやすい事故の予防や、発熱、けいれん、誤飲などへの対応方法を学びます。子育て世代だけでなく、祖父母世代や保育士などの関係者にとっても実践的な内容となっています。
「水上安全法」は、水辺での事故防止や安全な泳ぎ方、溺れた人の救助方法、応急手当などを学びます。海や川に囲まれた兵庫県においても、水の事故を防ぐために重要な講習です。
「健康生活支援講習」は、高齢化が進む社会の中で、健康寿命の延伸や高齢者支援の知識・技術を学ぶ講習です。介助の方法や健康管理など、地域で支え合う力を育てることを目的としています。
「赤十字防災セミナー」は、近年頻発する自然災害に備え、自分や家族を守る「自助」と、地域で助け合う「共助」の重要性について学びます。過去の災害の教訓を踏まえ、災害への備えを地域全体で考える機会となっています。
これらの各種講習を県内各地やオンラインで開催しています。令和7年度は、426回、12,512人の方に受講いただきました。

(時代が求める「自助・共助」の力)
近年、日本では、7月28日に発生した熊本地震をはじめ、大規模な自然災害が相次いでいます。地震に加えて、豪雨や台風、猛暑による熱中症のリスクも深刻化しており、私たちを取り巻く危険は多様化しています。
災害発生直後には、行政や救助機関だけでは対応に限界があり、地域住民同士による助け合いが重要な役割を果たします。
こうした場面で力を発揮するのが、赤十字講習で学ぶ応急手当や救命処置です。家族や職場、地域で一人でも多くの人が知識と技術を身につけることで、救われる命は確実に増えていきます。赤十字講習は、単に技術を習得する場ではなく、困っている人に手を差し伸べる「人道」の精神を育む場でもあると考えています。
(100周年を迎えた赤十字講習の新たな挑戦)
100周年を記念して、日本赤十字社では全国を巡回する記念キャラバンやシンポジウム、企画展などの取り組みを進めています。
とりわけ、「赤十字講習100周年記念キャラバン」では、AEDトレーナーや心肺蘇生訓練人形などを搭載した「キャラバンセット」が全国47都道府県を巡回し、各地で講習普及イベントを開催しています。令和8年5月に東回り・西回りの2ルートで出発し、11月までの約半年間にわたり全国を巡回する予定です。
このキャラバンは、各都道府県支部が中心となって、100年にわたり受け継がれてきた赤十字講習の歴史や意義を広く発信するとともに、「自分の命を守り、大切な人の命を救うための知識と技術」を次の世代へつないでいくことを目的としています。各地で実施される体験型イベントを通じて、一人でも多くの方に赤十字講習の魅力と必要性を知っていただく機会となればという思いで実施しています。
また、オンライン教材や動画コンテンツの充実により、より多くの人が学びやすい環境を整備していきます。働き方や生活様式が変化する中で、学習方法も多様化していますので、対面による実技講習の強みを生かしつつ、デジタル技術を取り入れた新しい普及活動を進めていけるよう検討しています。
100年の歴史を振り返るだけではなく、次の100年へ向けた新たな一歩を始める必要があと感じています。
(10月24日「(兵庫県)赤十字講習100周年記念キャラバン」の開催)
赤十字講習100周年を記念し、当支部では令和8年10月24日(土)、神戸市中央区の人と防災未来センター敷地内で開催される「ALL HAT 2026」において、「(兵庫県)赤十字講習100周年記念キャラバン」を実施します。
このイベントは、「見て・やって・学べる! いのちを守る体験ひろば」をテーマに、県民の皆さまに赤十字講習を身近に感じていただくことを目的としています。
また、本イベントは、先ほどご紹介した日本赤十字社の「赤十字講習100周年記念キャラバン」の一環として実施するものです。当日は、5月の沖縄県を起点として西日本を巡回してきたキャラバンについて、奈良県支部から兵庫県支部へ引き継ぐ「キャラバン引継式」を行います。
この引継式は、全国47都道府県を巡るキャラバンの歩みをつなぐ象徴的な取組であり、100年にわたり受け継がれてきた赤十字講習の理念と、「人を救う知識と技術」を次の地域、そして次の世代へ受け継いでいく思いを表すものです。
会場では、AEDや心肺蘇生の体験、高齢者疑似体験、水上安全法に関するロープワーク体験、防災・無線通信の展示など、多彩なプログラムを予定しています。
また、キッズ救護服の試着やハートラちゃんとの記念撮影、オリジナル缶バッジ作りなど、子どもから大人まで楽しみながら学べる企画も用意しています。
講習を受講したことがない方でも気軽に参加できる内容となっており、「いのちを守る知識と技術」を身近に体験していただける機会となります。
100周年という節目の年に開催されるこのキャラバンは、これまで赤十字講習を支えてくださった多くの方々への感謝を表すとともに、次の100年に向けて、新たな世代へ「人を救う知識と技術」、そして人道の精神をつないでいくものにしたいと考えています。
赤十字講習100周年は、単なる記念の年ではありません。それは、一人ひとりが「命を守る力」を身につけることの大切さを改めて考える機会だと思っています。
社会環境がどれほど変化しても、人を救いたいという思いは変わりません。赤十字講習が受け継いできた知識と技術、そして人道の精神を、これからも多くの人々につなげていきたいと考えています。
当支部といたしましても、県民の皆さまとともに学び、備え、支え合う地域づくりを進めてまいります。皆様とともに築いてきた赤十字講習100年の歩みに敬意を表するとともに、その歴史と理念を受け継ぎながら、次の100年に向けて新たな挑戦を続けてまいります。
